北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「いち」
 かすめるだけのキスが降ってくる。
「にぃ」
 次は少しだけ、口唇に圧力を感じた。
「さん」
 3回目が離れるときに、思わず「くくっ」と声が漏れてしまった。
「んもー、笑わないでください。やめちゃいますよ」
「やめないで」
 笑いをかみ殺して目を閉じる。
「よん」
 ふるえて開きそうになる口唇を、キスがステープラーみたいに綴じる。
「ご」
 触れてすかさず、吸いつくように口唇で押し返してみた。
 目を開けると、押されるままに下がった凛乃が、とろんと潤んだ瞳で挑戦的に見返す。
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