北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 凛乃について2階に上がると、だいぶ物が増えて狭く感じる3畳納戸から、ふたりがかりでマットレスを移す。ついでに凛乃の私物をすべて魔境に入れ、魔境からはふたりの体力が許す範囲で、荷物を納戸に放り込んだ。
 凛乃は腰に手を当てると、魔境を見渡した。
「こうしてみると、広いなあ」
 なかば凛乃の部屋と化した魔境を眺めて、累もふしぎな気分になる。かつて自分が寝ていた場所に今夜から凛乃が眠ると思うと、凛乃が居つく実感が湧いてくる。
「家政婦を辞めるんだと思ってた」
 同居から同棲に変わったことが感じられない不満が、疑問になって出る。
 凛乃は困惑気味に苦笑いした。
「そんなつもりはないですよ?」
「好きになってくれるって言ったのに?」
 ことばを探すように、凛乃の口が薄く開く。
「残りの荷物が片付いて、家政婦以外の仕事が見つかるまでは、わたしは小野里邸の家政婦でもあるんです。そこはケジメとして」
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