北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 背中をぽんぽんと叩く手が、とてもあたたかい。
 もし失敗しても、恥をかいても、帰るところがある。
 それだけで、未知に挑む勇気が湧いて、凛乃は背筋を伸ばして家を出ることができた。
 そうやって毎朝つるにこ付きで見送ってくれた累に加えて、あさってからはリメイクミラーが、応援団に参入する。
 新たに踏み出した一歩は、ちゃんと地面を踏みしめている感じがする。
「行きましょう水族館。外で待ち合わせて」
 スタンドミラーに映り込む自分と照れ笑いを交わしてから、凛乃はリビングに足を向けた。
「外で? わざわざ?」
 横に並ぶ累が、いぶかしむ。
「だって、いっしょに出るんじゃ、いつもどおりじゃないですか。デートですからね。初デートですよ」
「帰りも別々?」
「それはいっしょですけど。そうですね、設定としては、“初めてのお泊り”とか」
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