北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 半ば強引に追い立てたら、累は怯えたような表情を残して和室に入っていった。
 凛乃は駆け足で着替えを取りに行くと、有言実行でバスルームに飛び込んだ。
「だってムリー」
 シャワーの驟雨のなか、両手で顔を覆う。
 累とくっつきたいのは、やまやまだ。でも、つるにこがいるとそれができない。
 最近そういうことばっかり考えていることを、つるにこに暴かれそうで恥ずかしい。
 つるにこに曇りのない目で、なにしてんの? って見つめられたら、なにしてんだろ、と我に返ってしまう。我を忘れるのが“そういう気持ち”なのに。
 おかげで、四六時中いっしょにいる大人同士ながら、いまだキスどまりだ。
「いいの。明日から変わる」
 凛乃は顔をあげて、濡れた髪をぎゅっとしぼった。
 雇われ家政婦を辞し、経済的自立の目途もついた。堂々と自分のために使える休日から始めよう。
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