北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「明日から、おれも片づけをやる。いっしょにやれば、半分の時間で終わる。仕事を探す時間も、もっとできる」
「ありがたいけど……甘やかさないでください」
「甘えてくれるなら、なんでもする」
 凛乃がちょっと怖い顔でおもむろに近づいてきて、累の頬をむにゅっとつまんだ。
「……累さんのお面をつけた別人、とかじゃないですよね?」
「ひょうひへ?」
「こんなに積極的な人だったかなと」
 答えるまえに、凛乃の腰にするりと手を回した。凛乃は抵抗せずに、指から力を抜いた。指は頬から首筋を伝い降り、鎖骨にとどまった。
「必死なんだよ。好きになってくれるとは言ったけど、つきあうとは言ってないから」
「細かいですね」
 凛乃が小さく吹き出す。
「慎重と言ってほしい」
 今度は累が、凛乃の頬に指を添える。指は口唇の端を軸に、顔の輪郭をなぞる。
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