北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 でも、訊けないまま流してしまったら、きっともう二度と問う機会はない。そのしこりは固くなるばかりで、解けることはない。
 凛乃は意を決して飛び起きると、正座で前のめりに詰め寄った。
「累さん、どこがダメだったか教えてください。直しますから」
 累がハッとして凛乃と同じ勢いで起き上がった。
「ちがう」
 あぐらの両足首をつかんで、累も前傾姿勢だ。
「凛乃が悪かったとかじゃない。ただ」
「ただ?」
 少しだけほっとして、凛乃は次の言葉を待つ。
「勢いで突っ走っちゃったから、こどものこととか話し合ってなかった」
「こども……」
 ふしぎではないけど予想外の答えが返ってきてぽかんとする凛乃に、累が気遣うように首をかしげる。
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