北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「就職したばかりで妊娠したら困らない?」
「あ」
 累の言うとおりだ。
 興奮にかすんでいたけれど、それは避けて通れない話だった。
 持ち合わせなんてあるはずもなく、せっかくつかんだチャンスを保留にしてもらえるほどの実績もない。
 でも凛乃は、胸がじんとあたたまるのを感じていた。
「気持ちがうれしいです」
 わたしのことを考えて自制してくれた強さも。
「だからちゃんと言っておくんですけど、もしそうなって仕事をやめさせられたら残念だけど、自分の行動の結果だから責任は取ります。産むための努力をします」
 累の表情が引き締まった。
「先に言っておくけど、いまこどもができてもできなくてもプロポーズするつもりだから」
 プロポーズ予告に、笑ってしまいそうになる。でも凛乃はできるだけ神妙にうなずいた。
「わたしもハイよろこんでって言うつもりです」
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