北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
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 ノックの音に応じる声を聞いて、凛乃はタンブラーを2つ胸に抱えてドアを開けた。
「コーヒー淹れました」
「ありがとう」
 家政婦時代後半、累が仕事をしてそうな日の午後3時、コーヒーを淹れて累の部屋を訪問することにしていた。頼まれたわけじゃなく、生存確認と、少しでも関わりを持ちたかったから。
 コーヒーカップだと粗相するかもしれないということで、蓋つきタンブラーにコーヒーを入れて、10センチくらい開いたドア越しに手渡し。
 それがいまは、自身の休日に限るとはいえ、パソコンに向かう累のところまで行って、微笑みに出迎えられる。
「休憩する」
 そう言った累が、イスの奥深くに座り直す。
 空いたスペースに座って、というアピールに従って、イスの崖っぷちに腰を下ろす。
 累用のタンブラーを渡すと腰に腕がまわって、イスも回って、モニターの正面に向き直った。
 トランプをまき散らしたように、ウィンドウがいくつも展開している。
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