北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「いえ、ちょっと意外だっただけです。いいと思います、熱心なの」
「ムリしてない?」
「してませんよ。むしろ、それを出し惜しみしないところが……うれしい」
 累と気持ちを交わし合うまで、指一本触れられないばかりか、物理的に避けられているとしか思えない態度だった。
 それとの差には驚くだけに、どれだけガマンしてくれていたのかと想像すると、胸が締め付けられる。ガマンしていたのはこちらもおなじだから、その苦しさは容易に想像できる。
「つるにこが最近、わたしにもじっくり触らせてくれるようになったんです。仲良くなれた気がするから、そういうことってひとつの指標になるし、近くなるために大事な、必要不可欠なことだと個人的に思うので」
 マウスに置かれた手に、指を割り込ませた。
 スクロールバーを上下させると、傾向やテーマのちがうアソートセットが、色とりどりにアピールしてくる。
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