北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
ひょいと抱き上げられて、元クローゼットの垂れ壁をくぐる。
「もうちょっと奥に」
請われて、横たわったまま壁際に寄った。
はみ出していた累の脚がベッドに乗り、はだしの足先をこすりあわせるように具合のいい位置を探る。
「あ」
「ん?」
「お姫様抱っこされるのも、ここで寝るのも、熱出した日以来、です」
あのときの記憶は、雇い主に看病させたうしろめたさと、累に甘えたかった自分への自己嫌悪で、ぬかるみの下に沈められていた。
「そうだね」
答えた累の声にも、少し苦いものが混じっている。「あのときはごめん」
「累さんが謝ることなんてないですよ。わたしは自分が不甲斐なくてやつあたりしただけです。わたしが悪い」
「もうちょっと奥に」
請われて、横たわったまま壁際に寄った。
はみ出していた累の脚がベッドに乗り、はだしの足先をこすりあわせるように具合のいい位置を探る。
「あ」
「ん?」
「お姫様抱っこされるのも、ここで寝るのも、熱出した日以来、です」
あのときの記憶は、雇い主に看病させたうしろめたさと、累に甘えたかった自分への自己嫌悪で、ぬかるみの下に沈められていた。
「そうだね」
答えた累の声にも、少し苦いものが混じっている。「あのときはごめん」
「累さんが謝ることなんてないですよ。わたしは自分が不甲斐なくてやつあたりしただけです。わたしが悪い」