北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「ありがとう。助かった」
 口に出すと、やっと肩の力が抜けた。
 凛乃は運転席の顔をのぞきこむように前のめりになった。
「わたしこそ、連れてってもらえてよかった。頼られたのは累さんだけど、わたしもたくさんお世話になってるんだから」
 累は前を見たまま、うなずいた。
「おつかれさま」
「おつかれひゃま」
 凛乃の語尾が、噛み殺したあくびに混ざった。
「明日、ていうか今日、会社まで送ろうか? 佐佑も使っていいって言ったし、車ならドアツードアで寝られるし」
「そうさせてもらおうかなあ」
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