北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 凛乃はヘッドレストに戻って、夜景に目を移した。窓を下げて、吹き込んできた風に首をすくめ、すぐにきっちり閉める。
「夜ってこんなに寒くなってたんだね」
「エアコンつける?」
「だいじょうぶ、そこまでじゃない」
 窓に額をつけるように寄った凛乃の声が、ガラスに反射する。
「そろそろコートだよねぇ。新調するつもりで春秋のコート処分しちゃったけど、結婚式の服も買わなきゃだなあ」
「友達の結婚式、いつだっけ」
「11月」
 来月なら、まだ余裕をもって選べるだろう。
 でも累はふと心に湧いたことを、口に乗せた。
「母さんの着物、着ない?」
< 89 / 317 >

この作品をシェア

pagetop