北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「最初から遠慮しないでよかったのに」
声に出さずにつぶやいて、累は鮮やかな振袖の色に似た信号を見上げて車を発進させた。
家政婦の習性が染みついているのか、もともとそういう性分なのか、凛乃はあまり甘えてこない。ことばでも、行動でも。
おれたちはもう、まえとはちがうと思ってたけど、凛乃はちがうのかな。
家政婦に手を出した理性の効かない雇い主じゃなく、生活を共に営んでいく同居の恋人同士になったつもりだった。
家事は基本、折半。洗濯は個々人で、共有のものはどちらか都合がいいときに、ついでに洗う。掃除は家にいる時間が長い累がメイン、朝夕の食事はたいてい凛乃が作る。
敬語はやめた。おなじベッドで眠る。それ以上のこともする。
変わったところは少ない。少ないけど、大きなことだ。
だからこそ、ソファで凛乃持参のテレビを見ているときにぴったりと寄り添ってきた、なんてことで舞い上がる。それに乗じてキスして、あまつさえ押し倒してしまう。照れて逸らした瞳がとろんと溶ければ、さらに我を忘れる。
声に出さずにつぶやいて、累は鮮やかな振袖の色に似た信号を見上げて車を発進させた。
家政婦の習性が染みついているのか、もともとそういう性分なのか、凛乃はあまり甘えてこない。ことばでも、行動でも。
おれたちはもう、まえとはちがうと思ってたけど、凛乃はちがうのかな。
家政婦に手を出した理性の効かない雇い主じゃなく、生活を共に営んでいく同居の恋人同士になったつもりだった。
家事は基本、折半。洗濯は個々人で、共有のものはどちらか都合がいいときに、ついでに洗う。掃除は家にいる時間が長い累がメイン、朝夕の食事はたいてい凛乃が作る。
敬語はやめた。おなじベッドで眠る。それ以上のこともする。
変わったところは少ない。少ないけど、大きなことだ。
だからこそ、ソファで凛乃持参のテレビを見ているときにぴったりと寄り添ってきた、なんてことで舞い上がる。それに乗じてキスして、あまつさえ押し倒してしまう。照れて逸らした瞳がとろんと溶ければ、さらに我を忘れる。