独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
「嘘でしょ……」

葵は手に持っていたボストンバックを無意識のうちに落としていた。

(ない、ない、ない! なんで……!?)


ないのだ。

『天馬堂』そのものが。

真っ新な更地となって、跡形もなく消えている。
葵はショックが大きすぎてその場に崩れ落ちた。

(いつ、取り壊したの。私聞いてないよ……)

取り壊しはする予定ではあったのだが、利光の話では早くとも春先の話だったはずだ。

本当にいつ工事が行われたのか葵はさっぱり分からない。
その間、利光の病院と須和の家の往復をしていたのだから知る由もないのだが、
葵はひどく罪悪感に見舞われた。

(悲しい。もう一度だけでも、お店に寄りたかった。
最後に目に焼き付けておきたかったのに)

葵の人生は『天馬堂』が全てと言って過言ではない。
小さい頃から両親の働く姿を見て、自分も働いて、須和に出会って……。

思い出が後から後から溢れてくる。

(こんなにいきなりなんて……)
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