独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
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「ねぇ、お父さん」

「んー? なんだよ」


病院を出て、前を歩く利光に葵は呼び掛けた。

彼は葵を見ない。

今日はとても晴れていて、日差しが柔らかく空気がぽかぽかしている。
利光は久しぶりに外の空気に触れ、どこか浮かれているのかもしれなかった。


「……お店、いつ壊したの」

「どうだっていいよ、そんなもん」

そう言って利光は歌い出したので、葵は「いい加減にして!!」と大声で叫んだ。

「なんで壊す前に一言言ってくれなかったの?
何もないあの土地を見て、私がどんな気持ちになったか……お父さん、分かる?
いつも、いつも勝手に決めて」

「……」

(やっぱり、これは許せない)

利光は振り返ると、うなだれる葵の前まで歩み寄ってきた。
葵がゆっくり顔を上げると、はぁーと大きくため息をつく。


「もう店のことは全部忘れろ」

「は……?」

訳が分からず、葵は口を開けたまま利光を見た。

「思ったんだ。
柾と一緒になって幸せそうな顔をしたお前を見て、閉めてよかったって。
あの店がある限り、お前は幸せになれなかったんだよ」

「……っ」

「いつもいつも他人のことばっかり考えるんじゃなくて、いい加減自分の人生を生きてくれ」

利光は真っ直ぐ葵の目を見て、ハッキリと告げた。

「俺はお前に幸せになることだけを求めて来たよ。
でも気づかなかった、あの店がお前を縛っていたことに。
本当に申し訳なかったよ」

「やめてよ」

(そんな風にお店のことを……)

「和菓子職人になるのもいいし、柾と結婚するのもいいし、もう好きに生きていってくれ。
俺のことは気にするな。お前と一緒で好きなように生きていくから」

「……」

利光はくるっと体を回転させ、再び鼻歌を歌いながらバス停に向かって歩き出した。

(他人のことばっかり……? 私が?)
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