独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
葵は受付の女性に案内されるがまま、エレベーターで最上階にある社長室へと向かう。
彼は今会議中で席を外しているらしく、自分が来ていることを伝えられないまま応接のソファに腰を下ろした。
(柾さん、絶対にびっくりするよね。私が来るなんて夢にも思わないだろうな)
秘書の方に出してもらった温かい麦茶を口に含み、小さく息を吐く。
彼から自宅に忘れた資料を、じいやに持って来てほしいと連絡があったのが午前中。
それを盗み聞きした葵は、どうしても自分が持っていきたいと主張しここまでやって来たのだった。
その理由はというと――。
「社長、今晩は少しお時間頂けます? 美味しいワインのお店が」
「すまない、妻の体が心配なんだ。仕事の話ならここでしてくれないか」
ふいに聞こえてきた声に、どくんっと心臓が跳ね上がる。
動きを止めた葵は、扉の向こうにいる柾と、見知らぬ甲高い声の持ち主の会話を一言一句聞き逃せまいと息をひそめる。
「奥さんのことを心配して差し上げるお気持ちは素晴らしいと思いますけれど、息抜きも必要ですよ」
「お気遣いありがとう。でも僕にとって妻といる時間が息抜きなんだ。だから就業時間外の拘束はよっぽどの時にしてくれ」
「……っ」
柾らしくない淡々とした口調に葵が目を見開いていると、ガチャッと音を立てて社長室の扉が開かれた。
「えっ、葵!?」
「ま、柾さん」