傷つき屋
「俺は書くのも遅いんだ。なんでもできるお前には分かんねーよ」
机の上に座って高い目線から教室を俯瞰するマコトを、ノートに伏せた格好のまま見上げる。
マコトは高2の割に大人びていて、他の奴らみたいにキャッチボールではしゃいだりしない。
いつも穏やかに笑うから、中学の頃から女子にも人気だ。
「鈴元美咲かあ」
マコトはガムを噛みながらきょろきょろと何かを探すように見回した。
「俺は、あっちのミサキ派だな」
視線の先を追うと、離れた場所で一人本を読むピンと張った背中に目が止まる。
茶色いブックカバーに覆われた分厚い本を片手に、低いポニーテールを右肩の横に流す彼女は、いつも控えめで群れない。
ミサキ……岬 晴花か。
ああいうのが好みとは、意外とスケベだな。