傷つき屋
「……じゃあ、どっちも笑ったら?」
「男同士の真剣勝負に、そんな結末あるはずないだろ」
マコトは歯を見せて笑う。
まるで俺の方が秘密を抱えているみたいで、当事者でもないのに心臓が早まる。
「……きみの言うことって、ちょっと変」
岬は呆れたように息を吐いて、俺たちの間を通り抜けてホームへ先々と歩き始めた。
マコトが岬を追う。俺も遅れて追う。岬の歩幅に合わせて歩く速度を速める。
「じゃあさ、岬、カツアゲしない日は、一緒に帰らない?」
こんな時でもマコトは器用だ。なめらかな言葉で、岬の背中に呼びかける。
「やだ、すごいやだ」
「なんで。カツアゲしないように、見張っててよ」
岬がくるっと振り返って、思わず俺は立ち止まった。
快速電車が俺たちの横をざあっと通り過ぎた。
「……やだ」
肩に掛けた鞄の持ち手を両手で握って、岬は呟いた。
後ろ頭の低いところで結われたポニーテールが、通り過ぎる電車の風を受けて右に舞う。
「岬」
今度は丁寧に名前を呼ぶ。一文字一文字をひらがなに変えるみたいに、丁寧に呼ぶ。
「お前のこともっと知りたいんだ」
俺はいつでも背景だった。
マコトは舞台の上、エスパーなんて関係なくスポットライトを全身で浴びている。
俺は舞台袖でそれを見ている。岬が、困ったように眉間に皺を寄せて視線を逸らした。