傷つき屋
病院デート、とマコトは呼んだし、死に方の見学会、と岬は呼んだ。

俺たちは高校から二駅離れた、なるべく古ぼけていてなるべく高齢者向けの病院を探して向かった。

「見舞いのふりして、堂々としてればいいんだよ。全員、死にかけの自分のばあちゃんだと思って」

そうマコトが言うので、俺は電車に揺られながら自分のばあちゃんを思い浮かべてみた。

こないだのゴールデンウィークに会った時、ばあちゃんは原付バイクに乗って近くのスポーツジムに行っていた。
まずい、うちのばあちゃんは、はちゃめちゃに元気だ。


マコトは恥ずかしげもなく、電車の中で岬の手を握っていた。
岬は気にも留めないような表情で、でもどこか少し頬を赤くしながら、窓の外を見ていた。

各駅停車でドアが開くたび、初夏のくすぐったい空気が車内に入ってきて鼻をかすめた。


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