傷つき屋
「俺実はさ、レモンジュース嫌いなんだ」
組んだ腕の隙間からくぐもった声が漏れて不意を突かれた。
マコトは目をこすりながら顔を上げる。
「やるよ、それ」
そう言われ、眉間に皺を寄せたまま、俺はジュースの缶に触れた。
するとマコトが突然、手を重ねてきた。
「え?」
マコトが黒い穴のような目で俺を見つめる。
驚いて息を止めると、マコトも手に力を込めてきた。
ふわっと頭が浮くような感覚がして、重心が揺らいだ。
すっと体が軽くなる。
マコトは唾を飲みこんで、ふう、と息をついた。
俺のもやもやを、マコトが飲みこんだ。
「キモっ。手繋いでる。ホモじゃん」
おでこにちょんまげを作った茶髪の女子が笑う。
俺は我に返って重ねていた手を引っ込めた。
心臓がばくばくと大きく波打った。
マコトは片方の口角を上げて、またゆっくりと突っ伏した。
「……変なこと考えてんなよ」
そう呟いたと思ったら、すぐにすうすうと寝息を立て始めた。
俺は戸惑いながら、止まらない汗をどうにかしたくて、机の上にある缶ジュースを引ったくって一気に喉へと流し込んだ。