傷つき屋
それでもマコトはかたくなにそれを認めようとしなかった。
俺は自分の無力さを思い知る。
頭上で橋が揺れて、俺たちの間に流れる沈黙に鈍い振動音が横切る。
マコトは涙と鼻を袖でぬぐい、何かを消すように激しく左右に首を振る。
「それに傷つくのは心だけだ、体は傷つかない」
「だからって、」
口から飛び出そうとするのは偽善じゃない、たしかな叫びだった。
「そんな風に人の代わりに傷ついていたら、お前そのうち立っていられなくなるよ」
マコトが、おもむろにこっちを振り向く。
虚ろな目をふたつ顔に貼り付けて、機械みたいに口を四角く動かす。
「でも、世界平和ってそういうことだろ?」
もう日が落ちようとしている。
踏みしめる砂利が蟻地獄の入り口みたいに俺の靴のソールを覆っている。