傷つき屋
翌朝、靴箱で上靴に履き替えていると、アキオくん、と糸のように細い声が耳に触れた。

岬だった。

「おお、おはよう」

靴を仕舞っても、返事が返ってこない。


何か言いたげなその表情を不思議に思って見つめると、じわじわと岬の目に涙が滲んできた。

「え、え、どした?」

情けない声が上ずる。
よく見たら岬はいつもより二重の幅が広くなっていて、目は真っ赤に充血している。

「昨日、マコトくんから電話で、別れようって言われて……。一方的に切られて、折り返しても出てくれないの」

ひっく、ひっくと子供みたいに泣きじゃくる岬を前にどうすればいいか分からず、小さな肩の1ミリ上の空気を撫でた。

立ち尽くす俺たちを邪魔そうに避けたり、物珍しそうにじろじろ見たりして、クラスメイト達が横切っていく。


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