傷つき屋
「もっと無理に、やめさせるべきだった」
マコトは体の向きを変えて、橋の上から黒い川の向こうへ言葉を投げるように言った。
「やめないよ」
いつもの、迷いのない返事で、まっすぐに答える。
「使命なんだ。父さんの成し遂げられなかった、世界平和の為なんだ」
父さん、と聞き慣れない言葉が俺の耳を掠める。
マコトのお父さんは確か警察官で、小学校の時に亡くなったはずだ。
勤務中の事故だと聞いていた。
マコトは両手を広げて、大きな声ではっきりと言った。
「俺はどこも傷ついてないだろ。心臓も動いてる。俺はただ、理不尽に他人を苦しめる間違った奴らが、憎くて憎くて憎くて許せないだけなんだ」
でもやっぱり、二つの目が、濁っている。