傷つき屋
そして最悪の事態へ……
一夜漬けで詰め込んだ公式をぼそぼそと唱えながら、冷蔵庫を開ける。

飲みかけのコーヒー牛乳をパックのまま流し込むと、甘ったるい香りが舌を通らずに直接喉を濡らす。

月曜の朝という気怠いパッケージに期末テストという不快さがもうひとつ乗せられて、暑さよりも大きな憂鬱を招く。



「昨夜、………高校生が、……で中学生を刺し、……。容疑を認め……。」



牛乳パックを戻し冷蔵庫を閉めると、ばふっという音と共に冷気が顔を撫でた。

しょっぱなの数学が鬼門だ。物理は捨てたけど、現国はノー勉でなんとかなるだろう。

母親が片手でフライパンを揺らし、ウインナーが踊っている。


「アキオ、早いじゃん。期末テストやる気満々ね?」

「逆だよ、寝てないだけ」


それにいつもより早く家を出て、マコトを迎えに行ってみないと。




食卓に座って、トーストの上に乗った目玉焼きにフォークを突き刺す。

隠していた本音が溢れ出るみたいに、半熟の黄身が皿を黄色く染めていく。



「やだこれ、このへんじゃないの?嘘でしょ」


こわい、と言いながら母親がフライパンを斜めにして俺の皿の隅にウインナーを流してきた。

もわりと湯気が顔の前に来て、あつっと顔をしかめる。

残り半分は、妹の皿へ。
妹がスマホをテレビにかざした。

「やっばー。まじでこのへんじゃん。うちの中学?」

妹がつぶやく。カシャっとシャッター音がして、「なーんだ。うちの中学じゃないや、おもんなー」とトーストを頬張った。

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