傷つき屋

アキオはお世辞にもサッカーが上手いとは言えませんでした。

中2の時、一つ上の先輩たちが引退した後の試合ですらユニホームがもらえずに、サッカー部のオリジナルTシャツを来てネットの向こうから応援していた記憶があります。

それでも僕が根気よくサッカーを教えて、中3の時の最後の試合にはベンチに入れました。
途中交代でピッチにも出ました。あれは顧問の配慮だったかもしれないけれど。

「マコト、写メ撮って、写メ」

ユニホームを着て、嬉しそうだったアキオ。

アキオは、俺がいないと駄目なんだよな。僕は息をついて、微笑みました。

勉強もそう。サッカーもそう。アキオはいつも俺を頼ってきて、俺を必要としている。

アキオはずっとそうなんだと、ほんの最近まで、思い込んでいたのです。





事件の前日、橋の上から眺める黒い川の果てしない闇に、飲みこまれそうでした。

アキオが来ないかな、そう考えていました。

そうすると、すごいスピードの車輪の回る音がして、本当にアキオが現れました。

「アキオ、俺は分からなくなってきた。
お前のおかげで世界は平和だと、そう言ってくれないか」

……橋の上でそう言おうとしたのに、言おうとしたのに、言おうとしたのに、訳の分からないことばかり口を突いて出てきて。

まるで僕じゃない誰かがぺらぺらと代わりに喋っているような。

僕じゃない誰かが脳の半分を浸食しているみたいに。

アキオはそんな僕を否定し、僕の能力を拒否しました。




その時気づきました。

「アキオには俺がいないと」と思っていた本当の意味を。

僕は、アキオに必要とされることを、必要としていたんだって。




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