傷つき屋
膝の上に置いた手で力いっぱいズボンを握った。
口下手な自分をここまで恨んだことはなかった。
俺は、マコトを守りたかった。逆だったらきっとマコトはすらすらと、相手の納得できる論理を提示するんだ。
そうやって人を守る。あいつなら。
それなのに。どうして俺は。
喉を汗がつたう。何かを言おうとして開いた口の中で、歯が空を噛む。
「すいません……よく分かりません」
俯くと、額の生え際から汗がぽとりと落ちて、手の甲に滲んだ。
「ごめんごめん、おじちゃんの聞き方が悪かったね」
警官は元のように目を細めて見せた。
若い警官が立ったままで手元の黒いボードに何かを走り書きしている。
「マコトくんは悩みはあった?たとえば学校で嫌な思いをしたとか。家庭や恋愛のことでも、どんな些細なことでもいいよ、何か相談されたことがあるかな?」
壊れたカセットテープから雑音が流れ続けるみたいに警官は質問を続けたけれど、それ以降は返事を返すことができなかった。
俺は気づいてしまった。
気づいてしまったから、「マコトの友達」として、答えられることがただの一つも見つからなかった。
無いんだ。
俺はマコトに頼られたことが、一度も無いんだ。
なぜって、きっと、俺がこんなんだからだ。