傷つき屋
想像することなのだと、俺は思った。
レモンジュースの酸っぱさが口いっぱいに広がるのを想像する。
思わず顔をしかめて、唾を飲む。
エスパーなんてない人間同士が、人の痛みや苦しさをいたわり合うには、ただ想像することしかできない。
マコト。ばかにして笑わないでくれ。
それが俺にとっての世界平和だよ。
アスファルトの一本道が遠くまで続く。
眩しい空を見上げると、切れ切れの雲が散らばっていた。
千切られたそれらをくっつけて、ぎゅっと一つのかたまりに握って、ぽーんと白い糸のボールみたいに川に向かって投げるのを、想像する。
ぽちゃんと浮いて下流まで流れていくのを、想像する。
今度は手の汗を腰のあたりでごしごしとぬぐい、俺は自分自身を抱きしめるみたいに両肩を掴む。
マコトが人にそうしてきたように、手のひらの感覚を想像する。
想像して強くなろうと思った。そしていつか強くなれたら。
あの日マコトを救えなかったことを、許されたい。