エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 沈んだ気分のままぼんやりしていると、カバンの中でスマートフォンが震え始めた。確認すると、貴利くんからの電話だ。きっと、先に帰るという私のメールを読んで掛けてきたのだろう。

 出るか出ないか迷っているうちに留守電に切り替わり、何もメッセージを残さないまま電話は切れた。けれど、またすぐに掛かってくる。どうやら繋がるまで掛け続けるつもりなのかもしれない。

 勝手にいなくなって、電話にも出ないなんて。それこそ最低だ。


「――もしもし」


 私はゆっくりとスマートフォンを耳に当てる。


『千菜。どうして先に帰った。用事って何だ』


 貴利くんの低い声が少し焦ったように尋ねてくる。


『今どこにいる? 俺も今店を出たところだから。千菜が帰るなら送って行く』

「えっ、カフェ出たの? あの人は?」

『あの人?……ああ、麻宮さんのことか。彼女はカフェに置いてきた。もうすぐ友人も来るだろう。それより千菜は今どこにいるんだ。俺も駅に向かっているが、もう電車には乗ったのか?』


 置いてきたということは、貴利くんは麻宮さんとの話を途中で切ってお店を出たのだろうか。先に帰ると嘘を着いた私を追いかけるために……。

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