エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
受け入れて前を向け
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九年前の冬。
もしもあの日に戻れるなら――
『やばい。寝坊した』
慌てて制服に着替えて階段を掛け下りていくと、リビングから祖母が顔を覗かせた。
『おはよう千菜ちゃん。朝ご飯は?』
『いらない。もう学校行くね』
当時、高校二年生だった私は家ではほとんど祖母と二人暮らしのようなものだった。
父である玉蔵は仕事優先でほとんど家には帰ってこないし、母も仕事で朝早くに家を出て夜遅くに帰ってくる。幼い頃からそんな家庭環境だったから、私を育ててくれたのは祖母だった。
『千菜ちゃん待って。ほら、お弁当』
玄関で靴を履いていると、後ろから祖母に声を掛けられた。その手には小学生の頃から愛用している大好きなクマのキャラクターのお弁当袋を大切そうに握っている。そんな祖母を見て、思わずため息がこぼれてしまった。
『おばぁちゃん今日はお弁当いらない日だよ。今週はテスト期間だから学校は午前だけだって前に話したのに』
『ああ。そういえばそうだったわね。おばぁちゃんいつもみたいにお弁当作っちゃったわ。どうしよう』
『それじゃあ帰ってきたらお昼に食べる……おばぁちゃんどうしたの?』
そんなやり取りをしていると、突然、祖母が顔を歪めながら片手で頭を抑えた。