エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 確かに、手術をしたのは貴利くんじゃない。でも、倒れてしまった春子さんの異変にいち早く気が付いてくれたのは貴利くんだ。

 それも春子さんを救ったことになると私は思っているのに、その気持ちはあの電話では伝わらなかったのだろうか。

 貴利くんは無言のまま自分の両手をじっと見つめている。その横顔は、三雲先生が言っていた通りどこか沈んでいるように見えた。

 その原因が仕事のことなら私は相談には乗れない。なんの知識もないからアドバイスなんて簡単にはできない。

 でも、今の貴利くんを放ってはおくこともできない。何もできそうにないけど、離れられないから今はただ隣に座っている。


「この前、くも膜下出血の患者が運ばれてきた」


 視線を手の平からすっと上に向けると、貴利くんは唐突に話を始めた。


「その日は俺が当番で、救急から呼び出されるとすぐに向かった。患者は六十代の女性。自宅で倒れて、ここに到着したときにはもう意識がなかった。その時点でかなり深刻な状態だ」

「くも膜下……」


 患者は六十代女性。

 自宅で倒れて、病院到着時はすでに意識なし。

 ……そこで気が付いた。

 その状況は、九年前に祖母が倒れたときとよく似ている。

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