エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
「緊急手術になったが助からなかった」
貴利くんは膝の上に置いた両手を握りしめると、再び視線を下に落とす。
「助けられなかった」
小さく呟いたその声は震えているように聞こえた。もしかして、貴利くんが落ち込んでいる原因はこの出来事なのかもしれない。
「息を引き取ったあとで家族が病院にかけつけた。みんな動揺しているようだった。その中にセーラー服姿の女の子を見つけた。おそらく女性の孫だ。彼女は真っ先に祖母の元へ掛けよると硬く冷たくなった手を握って泣き始めた……その姿が一瞬、千菜に見えた」
「えっ」
私に見えたってどういうこと?
「俺は、千菜のために脳外科を選んだのに。あのときの千菜のように女の子を泣かせてしまった。医者である俺が、あの子の祖母を救えなかったから」
そんなことないよ。
すぐにそう言おうとしたけど、言葉に詰まって口を閉じた。
医者は神様じゃない。救いたくてもどうしようもないときだってあるはずだと、そんな当たり前のこと私になんて言われなくても貴利くんならきっと自分でわかっている。
わかっているけど、つい口にしたくなってしまうほど、きっと今の貴利くんの気持ちは沈んでいるんだ。自分でもどうにも感情のコントロールができないのかもしれない。