エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
「医者になって人の命と向き合うためだと、子供の頃から父と祖父に何度もそう言い聞かせられてきた。頭ではわかっている。でも、気持ちが追い付かない。医者になって何度か経験したが、助けられなかった命を思うと……」
貴利くんは言葉を切ると、悔しそうに唇を噛みしめる。しばらくすると自嘲気味に笑った。
「俺は医者に向いていないのかもしれないな」
「そんなことないよ」
今度はすぐに言葉が飛び出した。
「貴利くんみたいなお医者さんがそばにいてくれたら、患者さんもその家族もきっとすごく心強いと思う」
私はずっと貴利くんを誤解していたのかもしれない。
人の死をなんとも思わないような冷たい心を持つ人だと思っていた。そんな彼が医者として働いているなんて、患者さんとそのご家族が気の毒でならない。貴利くんに医者は向いていない。
そんな風に思っていた自分を思いきり殴ってやりたい。貴利くんはこんなにも優しく患者さんのことを思って寄り添っていたのに。
人はいつか死ぬと決まっている……きっと、その言葉は人の死を割り切って考えていたわけじゃなくて、きっと貴利くんなりの医者としての覚悟の言葉だったのかもしれない。