エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~

「むかしの千菜にも俺は冷たいことを言ってしまったな。励ますつもりだったんだが、逆に千菜を傷つけてしまったのかもしれない。すまなかった」

「貴利くん……」


 きっと九年前のことを思い出して言っているのだろう。

 確かに傷ついたし、だいぶ引きずってしまった。それがきっかけで貴利くんのことを嫌いにもなってしまった。でも九年経ってようやくそれが誤解だと気が付いた。

 貴利くんは、 医者になるための心構えとして、自分が子供の頃からおじいさんとお父さんに何度も言い聞かせられてきた言葉を使って、私を励まそうとしてくれたんだ。

 でも、初めて身近な存在を失った私にはその言葉がちょっとだけ……いや、かなりグサッと深く心に刺さってしまった。

 あのときの私は、貴利くんを心の冷たい人だと思ってしまったけれど、本当はそうじゃなくて、彼なりに私の気持ちに寄り添おうとしてくれていたんだ……。


「そろそろ日も落ちるな」


 貴利くんがベンチから立ち上がる。


「戻るぞ、千菜」


 私にそう声を掛けると、貴利くんは白衣のポケットに手を入れてゆっくりと歩き出した。

 その背中にどれだけの患者さんの命を背負ってきたんだろう。そして医者を続ける限り、これからも彼は背負い続けるのだろう。

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