エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
「ほら、あそこに座ってる」
そう言って、小谷さんが指を差した場所にいたのはやっぱり貴利くんだ。雑誌コーナーの近くにあるソファに座って、何かの雑誌に視線を落としている。
「さっきからあの場所で雑誌を読みながら、沢木さんのことをちらちらと見ていたけど、気付いてなかったの?」
「はい。まったく」
カウンターの仕事に集中していたから気が付かなかった。いつから貴利くんはあの場所に座っていたのだろう。
小谷さんと一緒になって雑誌コーナーのソファ席を見つめていると、私たちの視線に気が付いたのか貴利くんが手元の雑誌から顔を上げた。
目が合ったので軽く手を振ると、頷いただけで手は振り返してくれなかった。そして再び雑誌に視線を落とす。
すると、その様子を見ていた小谷さんが私の耳元で呟いた。
「ねぇねぇ。あの人なんか怒ってる? 沢木さんを見る目が怖いんだけど」
「いえ、怒ってはないと思いますよ。あれが通常の顔です」
貴利くんのことをよく知らない人はそんな誤解をしてしまうけれど仕方がないのかもしれない。もともと顔が強面なのに無表情だから、さらにこわく見られてしまうのだ。