エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 貴利くんの仕事が珍しく定時で終わったので、まだ仕事中の私を迎えに来てくれたらしい。

 けれど、外で待つのが寒くて、暖かな館内で雑誌を読んでいた。そう説明してくれた貴利くんの隣を私はのんびりと歩く。


「そういえば千菜の同僚に話しかけられた。この前、救急車を呼んでくれた女性だ」

「えっ、小谷さん?」


 どうやらあのあと貴利くんに話し掛けたらしい。まさか本当に連絡先を聞いたのだろうか。貴利くんは教えたのかな……。


「戦国時代は好きかと聞かれたから興味がないと答えたら、そうですかと告げて静かに去って行った」

「小谷さん……」


 連絡先を知りたいと言っていたはずなのに、まったく違う内容で声を掛けたみたいだ。

 それにしても小谷さんは、貴利くんに突然どうしてそんな質問をしたのだろう。大抵のことには動じない貴利くんもきっと困ったと思う。

 もしかして、前に小谷さんが話していた貴利くんに似ているという小説の主人公が戦国時代の武将なのかもしれない。それならその質問にも納得できる気がする。

 でも、どうやら貴利くんには興味がないときっぱり返されてしまったらしい。私はその場面を見ていなかったけれど、静かに去って行ったという小谷さんの寂しそうな背中を想像すると、少しだけ彼女がかわいそうになってしまった。

 チキンパーティーのときにでも慰めてあげよう。

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