エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
「千菜。どうした?」
窓にべったりと貼りついたまま動こうとしない私に、後ろから貴利くんの声が掛けられる。
最後のデートだから楽しく過ごしたい。そう思っていたのに、『なんでもないよ』と笑って振り向くことができない。
途端に寂しくなってしまった。
「千菜?」
すぐ後ろに貴利くんの気配がする。
泣いたりしたらきっと心配させてしまうから笑っていないと。
私は、瞬きを何度か繰り返して涙をぐっと引っ込める。そんな私の視線の先に、夜空の中を点滅して移動していく飛行機の光が見えた。
「貴利くんももうすぐあれに乗ってアメリカに行っちゃうんだね」
思わずそんな呟きがこぼれてしまった。そんな私の視線の先を辿って貴利くんも夜空を見上げる。
飛行機はだんだんと遠くへ向かって飛んでいき、点滅する光が小さく消えていく。
すると、貴利くんの腕が私を後ろからそっと引き寄せた。
「寂しいか?」
頭のすぐ上で貴利くんの低い声がそう尋ねる。
寂しいに決まっている。でも、それを正直に伝えてしまうと貴利くんを困らせてしまうから、私は返す言葉を見つけられない。
最後のデート。楽しく過ごすはずだったのに、込み上げるように涙が溢れてくる。泣いたりしたら貴利くんを困らせてしまうのに。