エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 それを無視するように歩き続けていると、「待て」と手首を掴まれた。貴利くんが私を追いかけてきたらしい。


「なぜ逃げる」

「逃げてないよ」


 思いきり逃げようとしていたのに嘘をついた。

 掴まってしまったので大人しく振り向くと、いつも無表情の貴利くんにしては珍しく焦ったような表情を浮かべている。


「どうして千菜がここにいるんだ。どこか悪いのか」


 どうやら患者として私がここにいると思ったらしい。違うよと首を横に振る。


「上司が入院しているの。だからそのお見舞い」

「そうか、見舞いか」


 貴利くんがほっと息をつく。


「てっきり千菜が何かの病気なのかと思って焦ってしまった。そうじゃなくてよかった。でも、よく考えてみればこの時間はもう外来は閉じているから診察に来ているわけないか」


 もしかして私を心配してくれたのだろうか。あの貴利くんが? ロボットのように感情のない冷徹人間なのに。

 でも、さっきのあの男の子に向けていた貴利くんの表情はとても優しかった。

 無理に作った表情には見えなくて、泣いている男の子を励まして安心させようと自然とああいう表情になったのだと思う。

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