エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望～独占欲全開で娶られました～

　人の心の痛みや悲しみをわからないような人だと思っていた。

　でも、さっきの男の子に接していた貴利くんは、私の知っている貴利くんとは違った。それに少し戸惑ってしまう。

　どちらが本当の貴利くんなんだろう……。

　そんなことを考えていると、「千菜」と貴利くんの低い声で名前を呼ばれてハッと顔を上げる。


「さっき見舞いに来たと言っていたが、上司は病気なのか？」

「えっ、ああ、うん。肺がちょっとね」

「肺がちょっととはどういうことだ。具体的な病名はなんだ」

「えっと……何だっけ」


　忘れてしまった。副館長の話だと、館長は肺が悪いらしいけど、それがどんな病名だったのかを今すぐには思い出せない。

　でも、今さっき会った館長は何やら管に繋がれていたけれど話もできるし元気そうだった。だからあまり深刻に考えなくてもよさそうだ。


「肺か。俺の専門は脳だからな……」


　貴利くんが何やらぶつぶつと言っている。そんな彼と長話はあまりしたくはないものの、さっきからどうしても心に引っ掛かっていることがあって尋ねることにした。