エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望～独占欲全開で娶られました～
　――そうだ。あの頃、千菜はまだ俺によく笑いかけてくれた。

　それなのに、笑顔を向けてくれなくなったのはいつからだろう。いつも俺を睨むように、どこか警戒するように距離を取り始めたのはいったいなぜなんだ。


『私は、あなたが好きじゃない』


　どうして俺は千菜に嫌われてしまったのだろう。

　俺はただ、あの頃のように千菜の笑顔が見たいだけなのに――





「――ここに戻せばいいのか？」


　いつかの懐かしい光景を思い出すかのように、片手に本を持つ千菜が、背の高い棚の上段に向かって思い切り手を伸ばしていた。俺は、その背後から少し手を伸ばして千菜の本を奪うと、彼女の代わりに書棚に戻してあげる。けれど……。


「違うよ、そこじゃない。そのもうひとつ上」


　どうやら別の場所だったらしく注意されてしまった。


「別にここでもそれほど変わらないだろ。同じ棚だ」

「だめ。本にはちゃんと分類があって、その通りに排架しないと利用者さんが探せなくなる」

「ハイカ？」

「本を分類通りに棚に戻すの」

「分類……」


　もしかしてこの背表紙の下に貼ってある小さなラベルのことだろうか。

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