エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 俺だって、周囲の視線が向けられていることには気づいている。でも、千菜を手に入れたくて必死なんだ。だから、そう簡単にこの手は離せない。


「千菜。頼むから、あの頃みたいに俺に笑顔を向けてくれ」

「貴利くん……」


 すがるように告げると、千菜の表情に動揺が浮かぶ。本当に、彼女は自分の感情がすぐ表情に出るからわかりやすい。

 ‟俺に笑顔を向けてくれ”

 ただそう言っただけなのに。俺は、千菜をこんなにも困らせてしまっている。それほど彼女は俺が嫌いなのかもしれない。

 俺は千菜が好きなのに。彼女は俺を好きになってはくれない。

 それが歯がゆくて、思わず千菜の腕を掴む手に力がこもってしまう。すると千菜が驚いたように俺を見るから、慌てて力を緩めた。


「すまない」


 静かにそう告げて、千菜の腕を離した、そのとき――


「中澤さん! 大丈夫ですか⁉」


 少し離れた場所から大きな物音が聞こえたと同時に、女性の悲鳴のような声が聞こえてきた。それに千菜がすぐに反応する。


「……春子さん?」


 カウンターのある方へ視線を向けると、その目が大きく見開いた。

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