エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
「沢木さん。ちょっとこの本見て。こんなにぶよぶよに膨れちゃって、かわいそうだと思わない?」
午後、カウンターの裏にある部屋で仕事をしていると、同僚の小谷さんがやって来た。彼女と私は同じ頃に港町図書館に採用された同期で、歳は小谷さんがひとつ上。
茶髪のボブヘアーにバッチリメイク。見た目は派手な小谷さんだけど、時代小説を愛読している歴史ヲタクだ。
小谷さんは手に持っていた一冊の本をテーブルにそっと置いた。おそらく水に濡れてから乾いたのだろう。大きさが二倍ほどに膨れてしまっている。
「この本を借りていた人がお風呂に落としちゃったらしいの。まったく、図書館の本を風呂の中で読むなっつーの」
綺麗な人なのに、小谷さんは少々口が悪い。カウンターではおしとやかに振る舞っているものの、私を始めとした同僚の前だと本性を出してしまう。
「三十代の男なんだけどさ、弁償ですって言ったらあからさまに苛立ち始めて。同じ本を購入して持ってきてくださいって言ったら、めんどくせぇって言って現金をカウンターに叩きつけるんだよ。ひどいと思わない?」
「そ、そうですね」
どうやら小谷さんはかなり怒っているらしい。その剣幕に少したじろいでしまった。
私がこの場所で静かに仕事をしている間に、まさかカウンターでそんなトラブルが起きていたなんて。