エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
その日、仕事を終えて自宅に戻ると母はまだ帰っていなかった。そういえば、今日は日帰りで地方での講義が入っているから、戻りは遅くなると言っていたと思い出す。
簡単に夕食の準備をして、バラエティー番組を見ながら食べていると、テーブルに置いていたスマートフォンが振動した。ディスプレイに表示されているのは貴利くんの名前だ。
いつもなら出るのをためらってしまうけれど、今日は違う。口の中の食べ物を慌てて飲み込むと、私はスマートフォンを耳にあてた。
『千菜?』
貴利くんは、まさか私が電話に出るとは思っていなかったのかもしれない。声に感情が乗らない彼にしては珍しく驚いているのが声の様子で伝わった。
「貴利くん。春子さん……中澤さんの様子は?」
副館長やご家族の説明では命に別状はないと言っていた。でも、脳の病気だ。後遺症が残ってしまう場合もある。
副館長とご家族にはあまり詳しく聞けなかったけれど、貴利くんなら知っているはず。そう思って早口で尋ねると、貴利くんからの返事はしばらく戻ってこなくて、少しすると低い呟き声が聞こえた。