別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
閑静な住宅街にある大きなお屋敷に着くと、七瀬さんが私たちを迎え入れてくれた。彼がいなければ、私たちは再び一緒に歩むことはできなかっただろう。

「お久しぶりでございます。会長が書斎でお待ちです。ご案内いたします」

長い渡り廊下を歩きながら湊斗がキャキャッとはしゃぐ。湊斗には“パパの方のじぃじに会いに行く”と伝えたのだが、それをちゃんと理解しているのかは定かではない。

湊斗はいつもと変わらず元気いっぱいだ。緊張で押しつぶされそうな私にその元気を分けてほしいくらいだ。

と、七瀬さんが立ち止まり襖に手をかけた。いよいよこのときが来たのだと悟る。

「久しぶりだね」

「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

書斎に足を踏み入れると、デスクチェアーから立ち上がりこちらへと渚さんのお父さんが足を進めてくる。

ぺこりと頭を下げ、再び顔を上げると宙で視線が交わった。でもあの頃みたいな冷酷な瞳をしていないことに気付いた。

「湊斗、じぃじにご挨拶をして」

「さくらみなとです。こんにちは」

渚さんに促され照れながらも湊斗は挨拶をして、じーっと渚さんのお父さんの顔を覗く。
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