別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「せっかくなので少しお話しませんか?」

「そうですね。はい……」

ほかに知り合いがいないのでありがたくもある。それから料理を摘まみながら互いの仕事のことや趣味のことなどを話していくうちに徐々に緊張感がほぐれていったが、それでもあの日のケーキの送り相手のことは聞けずにいた。

「さきほど佐倉さんのケーキ作りに対する想いを聞きもっといろいろお話を聞いてみたいと思いました。よかったらこのあと下の階にあるバーで飲み直しませんか?」

パーティーがお開きになる直前、まさかの如月様からのお誘いに戸惑ってしまった。明日は仕事が休みだし時間的には支障はないのだが、お客様である如月様と個人的に飲みにいくのはどうなのだろうか。そう思うと答えを出せずにいた。

「迷惑でしたか?」

「いえ。そういうわけではないのですが。如月様……」

「ずっと気になっていたんですが、その如月様という呼び方をやめにしませんか? 今日はお客として佐倉さんと会ったわけではないので、堅苦しいのはなしでいきましょう」

「それではお言葉に甘えてそうさせていただこうと思うのですが、なんとお呼びすればいいですか?」

「それでは下の名前で呼んでいただければ。(なぎさ)といいます。僕も佐倉さんのことを凛子さんとお呼びしていいですか?」

スッと胸元から名刺ケースを取り出して、私に差し出す。
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