別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
それからどのくらい時間が流れただろうか。

「とても有意義な時間を過ごすことができました。ありがとうございました」

お酒を飲みながら談笑していたらいつの間にか夜は更けていた。バーを出てタクシー乗り場まで送ってくれた渚さんが柔らかな笑みを浮かべながら私を真っ直ぐに見つめる。

「こちらこそありがとうございました」

「よろしかったらまた会っていただけませんか?」

「えっと、そうですね。機会があればぜひ」

渚さんにそう言われて嫌な気はしなかった。それでも社交辞令だろうと思いながら渚さん個人の連絡先が書かれた紙を受け取りタクシーへと乗り込む。その心は高揚していた。

普段仕事オンリーの私にとって非日常に近い今日一日の出来事は刺激に満ちていたからだろう。思わぬ渚さんとの再会に驚いたが、ずっと心に引っかかっていたケーキの送り相手の話を聞けた。

改めてお客様の想いを形にするケーキ作りに心から向き合って唯一無二の作品を作り上げていきたいと心に誓いながら帰宅の途についた。
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