別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「ひと通り工事請負契約書の方を拝見させていただきましたが、相手方の言い分を正当化する文言は見当たらないと思われます。誓約書にサインをする義務はないですし工事再開を要求して構いません」

「本当ですか? よかった……」

美紅がほっとしたように笑う。そんな美紅に向けて渚さんが丁寧に説明を始めた。

「相手方が工事を止める理由としては大きくふたつ。天災があって工事を進めるのが困難な場合、次に計画通りに契約者が工事代金を支払わなかった場合です。後者において源様の方で中間金の支払いを期日までに済ませているということなので、相手方が工事を止める理由はありません」

「向こうからは最終金を支払わないと工事を進めないとも言われているんですが」

「それも拒否していただいて大丈夫ですよ。契約書において同時履行の原則が記されており、今すぐに最終金を払う必要はないんです」

「同時履行の原則?」

「民法に準じて原則として目的物の引渡しと請負代金の支払いとが同時履行と定められているんです。この契約書内にもここにそう記載されています」

渚さんが指さす辺りに目をやれば、渚さんのいうとおりのことが書かれていた。素人では分かりにくい契約書だが、専門家である渚さんに説明を受ければスッと内容を理解できてそれとともに心が落ち着いていく。

美紅にとってもそれは同じだったようで表情が柔らかくなったような気がする。渚さんのことを紹介するか迷ったが結果的に相談に来て正解だったようだ。
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