別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「如月様、ようこそおいでくださいました」

館内に入るとすぐに淡い桃色の着物を着た四十代くらい女性が優しい笑顔で私たちを迎えてくれて部屋へと案内してくれた。

「綺麗……」

部屋のドアの先、リビングから続くテラスに広がる光景に心が高揚していく。テラスを囲むように赤や黄の広葉樹が広がり、光のライトアップによってとても幻想的な世界が広がっていた。さきほど見た庭園の紅葉よりも眼下に迫る位置にあるので、一段と迫力があるように思える。

「圧巻の景色だろう? 今日はテラス席で食事を堪能してそれからゆっくり温泉に浸かろう。ふたりきりでゆっくり最高の時間を過ごせそうだな」

はしゃぐ私を見て渚さんが嬉しそうに笑い、ギュッとバックハグをして頬にキスを落とした。

それからしばらくして夕食の時間になり、テラス席に座りながら季節の食材がふんだんに使われている懐石料理を堪能した。

「どの料理も見た目も味もとても最高でした。素敵な場所に連れて来てくださりありがとうございます」

「気に入ってくれたならよかった。僕も日常を忘れてゆっくり凛子と過ごすことができてとても幸せだ」

渚さんがたんぽぽの綿毛のような柔らかな笑みを浮かべながら、隣に座る私を自分の方へと引き寄せた。温かい温もりに包まれて心が穏やかになっていく。

仕事が忙しくてなかなかゆっくりと会えない日々が続いていたここ数週間。だからこそこんな風に大好きな人と心穏やかに過ごせる時間はすごく貴重だ。
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