別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「もしもし? お父様どうしたんですか?」

父からだった。

「母さんに凛子が旅行に出かけたと聞いて、無事に着いたのか気になってな」

「……」

父の心配症と過保護は昔からだ。気にかけてくれることはありがたいのだが、正直この歳にもなっていろいろ干渉されるのはつらい。

特に見合い話が持ち上がってからは少し父とは距離を置いていたのだ。今回の旅行のことも母にしか伝えていなかったのに、どうやら母が口を滑らせてしまったらしい。

「楽しく過ごしているので大丈夫です」

「そうか。ならばいいんだが。時間を取らせてしまって悪かったね。気をつけて帰ってくるんだぞ」

「分かりました。それでは友だちを待たせているのでまた」

「ああ」

まさか彼氏と旅行に来ているとは、口が裂けても父には言えない。めんどくさいことになるのが目に見えるもの。

父との電話を終え、一息つくと脱衣所の方から渚さんが顔を出した。

「待たせてしまってすみません。父からでした」

「そうか。なにかあったのか?」

「いえ。うちの父すごく過保護なんです」

「過保護?」

「私が旅行に出かけているのを母から聞いたらしく、ちゃんと着いたのかって確認の電話というか」

「そうなのか。凛子のことを心から大切に思っているんだな」

クスッと渚さんが笑う。
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