別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「急に声を掛けて驚かせてしまって申し訳ありません。私、如月コーポレーションで会長秘書をやっております七瀬(ななせ)と申します」

「……」

〝如月コーポレーション〟その名を聞いてドクンと心臓が跳ねた。それは渚さんのお父さんが経営する会社だ。その会長秘書の男性が私を訪ねて来たということは、なんとなくよくない話なのではないかと推測できる。

「あの、どういったご用件でしょうか?」

「会長が佐倉様とお話したいと仰っておりまして」

「渚さんのお父さんが私と?」

「はい。急で大変申し訳ないのですが、今から少しだけお時間をいただけないでしょうか?」

言葉選びは丁寧ではあるが、淡々としたその雰囲気からは冷たい印象を受ける。丁重にお断りして一刻も早くこの場を離れたい。それが私の本音だ。

だけど、きっとこの場を凌いだところでまたコンタクトを取ってくるのではないかと推測できる。それに渚さんを介せずこのように私に会いに来たということは、彼抜きで私と話したいということなのだろう。

「分かりました」

心の動揺を悟られないようにと、一生懸命に平静を装いそう答えた。
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