別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「よりにもよってなぜ因縁深い君を選んだのか私には理解できない。渚は〝君たち〟をよくは思っていなかったはずだ」

「……どういう意味ですか?」

意味深な発言に、そう聞き返さずにはいられなかった。

「本当になにも渚から聞いていないんだな。できれば私もこの話はしたくなかったが、君に別れる意思がなさそうだから伝えておかなければならない」

向けられたまなざしには憎しみが満ちていて、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるように見える。

「あのとき佐倉先生がいてくれて応急処置をしてくれていれば、妻はもっと長生きできたかもしれない。子供たちともっと多くの時間を共有できたかもしれないのに」

〝佐倉先生〟とは恐らく父のことを言っているのだろう。

「……父と面識があるのですか?」

核心部分が近づくにつれ、身構えながら話の続きを待つ。

「ああ。妻が末期の胃がんだった。それでも私は諦めることができなくて転院をくり返してたどり着いたのが佐倉先生……つまりは君の父親のところだった」

「父が渚さんのお母さんの主治医だったということですか?」

「そうだ。とても物腰が柔らかくて患者想いの素晴らしい先生だと思った。この先生ならば信じてみてもいいと。そしてお世話になることにした。実際に佐倉先生のおかげで宣告された余命を超えて妻は生き続けた」
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